山奥ニートの孤独な戦い
ずっと雨漏りしていたんだけど、結局大家さんのお金で直してもらうことになった。
この家の家賃はタダなのに。
そんなにお世話になっていいんだろうかと思うけど、他に選択肢がないのでご行為に甘える形に。少しずつ恩返しできたらと思う。
そういうわけで、知り合いの業者が屋根を張り替えてくれているんだけど、ここで大きな災害が起こる。
その夜、夜中の3時ごろ、僕はそろそろ寝ようと思って、寝る前に水を1杯飲みに居間にいった。
そうしたら、天井から何箇所も水が垂れ落ちている。
今まで居間は雨漏りしていなかったはずなのに!
すぐに、明日新しい屋根を貼るために、今夜だけ古い屋根を剥がしていることを思い出す。
こんなときに限って、ジョー君もヨシ君もいない。2人は出稼ぎと帰省中だ。
とにかくマズい、何かで受けないと。
急いでバケツや鍋や洗面器やどんぶりを雨漏りの下に設置するけど、そのうちにすべての食器を使っても受け切れないことに気づく。
雨足はどんどん強まって、雷が鳴り始めた。
こっちの鍋に溜まった水を捨てている間に、あっちのバケツの水が溢れそうになっている。
天井から流れ落ちる水は、琥珀色をしていてとても臭い。
居間でこれだけ雨漏りしているんだったら、今まで雨漏りしていた部屋はどうなってるんだと見に行く。案の定水浸しだ。一応どんぶりで受ける。
ついでに今はいないジョー君とヨシ君の部屋をちらっと見ると、そこでもかなりの量の雨水が天井から落ちていた。
まさかと思って、他の部屋をすべてチェックする。
すべての部屋の天井から、雨漏りしていた。
畳を守るためにボタボタ落ちる雨水をお皿で受ける。雫が跳ね返ってどのみち濡れるだろうが、少しでもマシになることを祈って。
居間に戻った時は 雨は更に強まって、 柱をつたって滝ができていた。
比喩じゃなく、打たせ湯ができるほどの滝が何箇所もあった。
床は波打つほど水が溜まっていた。 もうこれは床上浸水だ。
鍋で受けても無意味だ。空から降る雨を全部受け止めようとしているのと同じだ。
本棚だけはなるべく濡れないようにゴミ袋で覆う。
夜が明けるのと同じくらいに、雨はやんだ。
その頃にはもう、僕はへとへとに疲れていた。
寝ようと思ってから4時間、家中を走り回っていた。
横になりたかったけど、この家に濡れてない場所はどこにもなかった。
ふらふらになりながらも、家のすべての床の水をモップと雑巾で吸い取る。
カーペットを干す。水をたっぷり吸ったカーペットは70kg以上あるように思えた。こんなに重いものを運んだのは本当に初めてだ。背中で背負おうとしたら、そのまま一度押しつぶされた。
なんとかカーペットを外に出す。既に空は晴れ始めていた。
すべての部屋の畳を干す。
濡れた布団も干す。
雨水は天井裏の腐った木の臭いをそのまま運んできていて、吐きそうになるくらい臭かった。それが家の中全体に広がっている。
それらの作業が一段落着いたのは、昼前の11時。
この家に湿っていない布団なんかないので、一番マシだった畳の上で気絶するように寝た。
これが、寝ようと思ってから8時間、ひとりで雨水と戦い続けた顛末である。
今でもありありと、天井から落ちる水の臭いと、自然に対する絶望感を思い出せる。
この先3年は、この時の大変さを主張していきたいと思う。
屋根はこの通り、新しくなりました。