山奥ニートの日記

ニートを集めて山奥に住んでます。

山奥ニート、本屋へ営業に行く

正直なところ、本とは儲からないに違いない。というかここ2年は本を優先して働いていないから赤字なので、印税はその補填になってしまう。なので、そういう直接的なお金より、山奥ニートという存在がこの地域で知られることで間接的に得があるのではないか、というのが山奥ニート本を書くインセンティブだった。

だけど、書店に置かれてないんじゃ意味がない。本の営業は出版社の人と行くものらしいけど、新型コロナの影響で気軽に東京から来てもらうわけにはいかない。なので、僕一人で「どーもー」みたいな感じで挨拶だけすればいいかなと簡単に思っていた。だけど、編集者さんに相談したら、出版社からアポ取ってもらうことになり、なんか大ごとになってしまった。

行ったらサインをすることになるだろう。参った。何書きゃいいんだ。作者のサインなんか本当に欲しいのかなぁ。そもそも有名人のサインを欲しいなんて、僕はあんまり思ったことないな。phaさんには唯一、頼んで書いてもらったけど。あれこれ考えて、今回は近くの町なのだし、共生舎までの生き方を簡略化した地図を書くことにした。

さて、この辺りでは一番大きく、自分もたまに行くツタヤに行く。店内に入ったら、一番目立つところに小さな机が置いてあって、そこに山奥ニート本が山積みにされていた。その時の僕の気持ちは?
うーん、別に嬉しいとかは思わなかった。ポップも何もなかったので、これじゃ地元の人が書いたって分からないじゃないか、大丈夫かーと思った。そこまでの待遇に見合うほど売れるかは自信ないです…。和歌山ゆかりの本コーナーの片隅に置いてくれれば、それでいいと思ってた。

f:id:banashi1:20200608122119j:plain

レジの横に行って声をかけると、バイトの若い女性が面倒くさそうに社員を呼んだ。小走りで社員の男性が移動式の机を押してやってきて、僕に名刺を渡して、この場で色紙にサインを書いてくれと言う。
本の見返しに書くと思っていたのに! というか店内で書くんだ。何事だろうとお客さんが見ている…。戸惑いながらも、用意してきた通り、共生舎までの地図と、自分の名前を書く。本の見返しに書くサイズだと悪くないと思ったんだけど、色紙に書くといかにもやっつけ感があり、みすぼらしく見えた。
書き終わったら「他の書店は行かれたんですか?」と聞かれた。いえ、これからです。僕は質問の意図が分からなかった。社員さんはお疲れ様ですと言うが早いか、すぐに奥へ戻っていった。

もうちょっとチヤホヤしてもらえると思ったのにな。

次のアポまで1時間あったので、そのまま書店内を見て回る。実際に本屋に行くと、自分の興味がないものが目に入るから楽しい。ネットでは基本的に自分で能動的に見ようと思ったものしか目に入らない。こどもの本総選挙だって。上位を『ざんねんないきもの図鑑』とヨシダシンスケとおしりたんていが独占していて、予想通りすぎてかえってガチ感があるなと思った。シュリンクしてないRoll&Role(TRPGの雑誌)が置いてあったので、この店に対する好感度がグッと上がった。勝手なもんだ。

久しぶりに本屋を楽しんだし、そろそろ次へ行こうかな。そう思った時、床に50円玉が落ちているのを見つけてしまった。ええ。いや仮にもさっき作者としてサインを書いた人間が、ここでネコババしていいのか? でもたった50円だし、店員に渡しても逆に迷惑だろう。というか、店員に話しかけられたら「コイツまだいたのか」と思われそうだ。結局、誰も見てないことを確認して、こっそり拾ってポケットに入れた。満面の笑顔で。「いえ、違うんですよ。これがドッキリだって分かってるんですよ。冗談で拾っただけです」と言い訳できるように。

2店目。田辺には3件本屋があるけど、1件は行ったことがないから営業するのはやめた。だからこれが書店まわりの最後。
こちらも入り口すぐの一番目立つ場所に、平積みにしてくれていた。店員さんに声をかけると、ポップ用の小さな紙を渡された。ああ、さっきの書店もポップ風に書けばよかったのか。僕がポップを書くだろうと思ったから、単に机に並べられていただけだったのか。そう気づいたら、急に恥ずかしくなった。そうと分かったら、色ペンを借りていかにもポップという感じで書いた。「限界集落×ニート 日本の未来がここにある…かも。田辺に住んでます」みたいなことを書いたと思う。

書き終わったとき、ここでも「他の書店は行かれたんですか?」と聞かれる。どういう意味なんだろう。そんなに僕のこれからの予定が気になるのかな。それとも「お前、他の店でも同じこと書いてんじゃないだろうな!?」って意味なのか。
さっきツタヤに行ってきました、と答えると「どんな感じで陳列してました?」と聞かれた。

あ、そうか。すべてが分かった。田舎の本屋に作者が来ることなんて滅多にないから、どう扱っていいか分からず持て余してるのか…。申し訳なくてしょうがない。逃げるように僕は店を出て、山奥へ車を走らせた。やっぱり町へ行くとろくなことがない。途中のコンビニで、拾った50円を募金箱に入れた。

 

 

 

 

『「山奥ニート」やってます。』の元ネタ

『「山奥ニート」やってます。』は僕が今まで触れてきた全てのものから影響を受けているんですが、中でも大きな存在だった本をご紹介します。

 

 

ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法

ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法

  • 作者:pha
  • 発売日: 2012/08/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 『ニートの歩き方』pha
僕はphaチルドレンなので、影響を隠せません。他の出版社から文庫で出さないかと誘われたんですが『ニートの歩き方』と同じ形式で出したかったんで断りました。よかったのか、悪かったのか。
phaさんの文章読むと、僕が書きたい事全部書いてあるので、この本書き終わるまで読まないようにしてました。ようやく解禁、noteの日記が読める。

  

安心ひきこもりライフ

安心ひきこもりライフ

 

 『安心ひきこもりライフ』勝山実
じつは勝山実さんは僕よりも早く共生舎に来ているのです。ひきこもり名人であり、僕の心の師匠です。でも僕はあんな過激な事怖くて書けない…。

 

独立国家のつくりかた (講談社現代新書)

独立国家のつくりかた (講談社現代新書)

 

『独立国家のつくりかた』坂口恭平
僕がもう少しやる気に満ちた人間だったら、独立国家作ってた。でも、山奥に行くことに抵抗がなかったのはこの本を読んでいたからな気がする。坂口恭平さんはとっくに辞めてしまったみたいだけど。

 

 『しょぼ婚のすすめ 恋人と結婚してはいけません!』矢内東紀
この本というよりは、矢内東紀さんと結婚についてトークイベントした時の話が、僕の子育て観を形成しています。まぁ実際に子供できたら変わるのかも。

 

フリーターズフリー〈Vol.01〉よわいのはどっちだ。

フリーターズフリー〈Vol.01〉よわいのはどっちだ。

  • 発売日: 2007/06/01
  • メディア: 単行本
 

 『フリーターズフリー』Vol.1
「NFO」の話は僕のオリジナルではなく、生田武志さんが寄稿された「フリーター≒ニート≒ホームレス ポスト工業化日本社会の若年労働・家族・ジェンダー」で提唱されている概念です。今ではすっかりシェアハウスは当たり前になりました。

 

働かないアリに意義がある (中経の文庫)

働かないアリに意義がある (中経の文庫)

 

 『働かないアリに意義がある』長谷川英祐
シェアハウスしてると、本当に働かないアリと働くアリがいるなって思います。でも働かないアリも必要なんですよ。本当に。

 

限界集落の真実―過疎の村は消えるか? (ちくま新書)
 

 『限界集落の真実 過疎の村は消えるか?』山下祐介
限界集落は無くなるべきか」の章はほとんどこの本の感想文と言っていいかもしれません。僕はもったいないから残ってほしいと思う。

 

 『Spectator』44号
ヒッピーの教科書。この本に、ヒッピームーブメントはそこがベビーブームで若者の人口が単純に多かったから起こった、と書かれていてなんか悲しくなった。こういう大きな波は日本にはもう来ないのかなぁ。

 

あと、脱稿した後にマーク・ボイル『無銭経済宣言 お金を使わずに生きる方法』読んだら、僕と同じくサンタの話が書いてあって驚いた。しかも僕よりずっと面白い。やっぱマーク・ボイルは格好いいですよ。

無銭経済宣言――お金を使わずに生きる方法

無銭経済宣言――お金を使わずに生きる方法

 

 

山奥ニート本、発売前日

f:id:banashi1:20200520015225j:plain

1冊1500円の本を買うのは、ニートにとって一大決心だ。

会社員にとっての15000円の買い物、いやそれ以上かもしれない。

だから、自分が本を出すなら、絶対に損したと思わせないようにしたい、と思った。

 

だから、この本には山奥ニートのすべてを詰め込もうと思った。

結果、5章で構成することにした。

 

1章は山奥ニートの概要。ここはルポルタージュ風に。

2章は山奥ニートの日常。ここは日記風に。

3章は山奥ニートの歴史。ここは物語風に。

4章は僕以外の山奥ニートの話。ここはインタビューだ。

5章は僕の山奥ニートに対する考察や意見を書いた。新書っぽい感じに。

 

速筆の人だったら、これらを5冊に分けて出版することができるだろう。

でも、全部入れたかった。結果、320ページとソフトカバーの単行本にしてはなかなかの厚さになった。

手元の同じ形式の本は200ページほどだ。

それでも、章が変わると雰囲気も違うので、つまらないと思った部分は飛ばして次に進めるようになっているはずだ。

内容は全部書き下ろした。ブログと同じ話を書いているけど、コピペは一切していない。

いや、できるならコピペしたかった。

でもブログに書いてる程度の文章じゃ、本にするには薄すぎた。

もっと真面目にブログ書いておけばよかった。

だから10万文字書きおろすことになった。大学の卒論だって2万文字なのに。

ニートにしてはよくやったと思う。

 

文章を書くのは楽しい。

書いている間、あっという間に時間が過ぎる。

自分の文章を読み返して、些細な修正を繰り返していくのは彫刻を掘るみたいだ。

でも、この本を書くのは辛かった。

ブログは、書いてみてまとまらなかったらボツにできる。

だけど山奥ニートの本を出すからには、必ず書かなければならない事がたくさんあった。

例えば、お金の話。

収入や支出の話をすると、そこばかり取り上げられるから、正直あまり触れたくない。

だけど、読者が一番気になってる事だとは分かってる。

だから頑張って書いた。僕は山奥ニートの中でも変わってるので、参考になるかはわからないけど、出来るだけ赤裸々に書いたつもりだ。

それ以上に描きづらかったのは、自分の過去について。

僕がニートになるきっかけの話は、今まで誰にも話した事がなかった。

思い出したくなかったし、鬱で記憶が曖昧だ。

それでも編集者さんに、山奥ニートをする人がどんな人なのか読者はきになるはずだと説得されて、歯を食いしばって書いた。人に見せられる形になるまで、何度も書き直した。

それなりに読めるものになったと思う。

でも言語化によって、自分の記憶の言葉にならない部分は消えていった気がする。

まぁ、遅かれ早かれ忘れる事だ。

過去のことを思い出すために、中退した大学に潜入したり、同窓会行ったりしたんだけど、この話はどっかで書きたいな。

 

執筆の後半になってようやく、自分は書けるものしか書けないのだと気付いた。

編集者さんに初めて会った時、僕はこう言った。

「ブログでは『ですます』と『であるだ』を織り交ぜて書いてるんですけど、本だと違和感ありますよね。どっちに統一しましょう?」

なんて生意気な!!

そんな器用な事、100年早い。結局、僕にはこの文章しか書けないのだ。

それに気付いて、一度全部ボツにして、最初から書くことにした。

それで2年かかった。最後まで付き合ってくれた編集者さんには頭が下がる。

 

本は出来上がったわけだけど、正直なところ達成感はまったくない。

ただ、終わったなーと思う。

2018年から、いつも脳みその片隅には本のことがあった。

自分が本を出したいと言ったから、書くことになったんだけど。

でも何度、やるなんて言わなきゃよかったと後悔したか。

書き終わった現在、今度はあんなこと書かなきゃよかった、と不意に思い出して恥ずかしくなる。

ブログなら、後からいくらでも直せるのにな。

一方で、本屋の平積みを手にとってペラペラめくり「これなら僕の本の方が面白い」と増長したりする。

編集者さんは原稿を出すたびに、べた褒めしてくれる。

「褒めるのが仕事なんだなぁ、大変だ」と聞き流す。

でも、原稿ができた後、PR方法を相談した時に「ツイッターで本文の一部を公開しましょう」と言われた時は驚いた。

僕は、中身が良くないから表紙に気合い入れてほしいなー、と思っていた。なのに、中身を公開するだって!?

その時ようやく、編集者さんのことを信頼できるようになった。

原稿終わった後にそんなこと思っても、意味ないんだけど。

僕はいつも人を信用するのが遅すぎる。

 

とにかく、今の僕の力はすべて出した。

僕らはまだまだここで暮らしていくけど、間違いなく一つの区切りになる。

山奥ニートの5年間の集大成だ。

まぁ、書いてるうちにいろいろ山奥も変化して、2年分のネタが新しくできてしまったんだけど。

書いてる時は「本なんて凡人が書くもんじゃねー。二度とやるか!」と思ってたけど、喉元過ぎれば熱さ忘れる。 

「山奥ニート」やってます。

「山奥ニート」やってます。

  • 作者:石井 あらた
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

山奥ニート本、発売まで後2日

『「山奥ニート」やってます。』が
Amazonのノンフィクション売れ筋ランキングで84位になったり、 

f:id:banashi1:20200518095247j:plain

 

楽天の「小説・ノンフィクション」部門で14位になったりしている。

f:id:banashi1:20200518095250p:plain

これが売れてるってことを意味するかは、分かんないですね。

一時的なものなので、大きな意味はないと思う。

編集者さんが「今年一番売りたい本、てかたぶん売れる」と言っていたけど、ホントかなぁ。

ニッチな本だから、あんまり売れないんじゃないか。

まぁ売り上げはともかく、本という形あるものにできてよかった。

これで僕らにベットしてくれた人たちにも申し訳が立つよ。

発売まで後2日。

物流のアレで届くのに少し時間がかかるみたいなので、早めに予約した方がいいみたいです。

「山奥ニート」やってます。

「山奥ニート」やってます。

  • 作者:石井 あらた
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

日記04/13 本の見本が届く

とっても天気がいい。
リビングに行くと、テーブルの上に宅急便の大きな袋が置いてある。
なんとなく、中身が何かわかったので、見なかったことにしてスパゲティを作る。
冷蔵庫の中の使いかけのトマト缶、缶の周りにカビが生えていた。もったいないので取り除いて使う。
最近、トマトのスパゲティをうまく作れるようになってきた気がする。なぜかはわからない。僕にとって料理とは遊びの一つなので、きっちりレシピ通りに作って常に美味しい味にするより、適当にやった結果のブレを楽しんでいる。
今日はうまくできたので、青空の下で発泡酒と一緒にいただいた。
幸せとしか言いようがない。

午後はジャンプ+で無料になってる『トリコ』を読んだ。
少年漫画はほとんど肌に合わないけど、これはとても面白かった。
実際のトリビアを織り交ぜながら、荒唐無稽な話をしていくのがとても漫画っぽくて好きだ。

夕方、晩ごはんを作ろうとリビングに行くと、すでにヨシ君がカレーを作っていた。本格的な北インド料理だ。
せっかくリビングに来たので、観念して宅急便の袋を開ける。
思った通り、僕の本の見本だった。

f:id:banashi1:20200515021154j:plain嬉しいような、怖いような、とにかく落ち着かない。
実物が届いたということは、他の山奥ニート住人にも読まれるということだ。
本には「嘘ではないけど、正確ではない」ようなことも書いているので、ツッコミが入ったらどうしよう、と不安になる。

さっそく、ヨシ君とももこさんが読み始めてしまった。
僕はどんな顔をしたらいいのかわからずに、そわそわ。
部屋に帰るのも逃げたみたいになるし、感想が気になるから、リビングをうろうろ歩きながら、読み終わるのを待つ。
2人が本から顔をあげたのはそれから3時間ほど経った後。
「面白かった」と言ってもらえたので、ほっと胸をなでおろす。
ヨシ君は感想を話しながら、少し涙ぐんでいたような気がする。
本については話したいことがたくさんあるけど、とても長くなってしまうので他の機会にする。

何はともあれ、まずはNPOの理事長に本を送るため、梱包した。
明日は、お隣の潤さんに渡しに行こう。

とにかく発売日前後の作者のメンタルは不安定なので、みんな気を使ってください。

 

「山奥ニート」やってます。

「山奥ニート」やってます。

  • 作者:石井 あらた
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

山奥ニート本、5月21日発売です。

f:id:banashi1:20200509180205p:plain

こんにちは。「山奥ニート」です。
山奥ニートとは読んで字のごとく、山奥でニートしてるということです。
毎日おひるに起きて、人のいない限界集落を散歩したり、鶏と戯れたりしています。
僕は山奥で一人で暮らしているわけではありません。
いつもは十数人くらいで共同生活をしています。
(今は新型コロナの影響で鎖国していて、もっと少ないです)
共同生活と、限界集落の家賃がゼロの物件に住むことによって、生活に必要なお金を減らして、働く時間をできるだけ少なくする――これが山奥ニートの基本的な考えです。

 

そんな日々の暮らしを、2年ほど前から一冊の本にしようとコツコツ書いていました。
妙な所で凝り性な気質と、のんびりした山奥時間が合わさって、長い時間がかかってしまいましたが、なんとか納得行く形になりました。

ページ数は321ページ。
手元にあるソフトカバーの本はどれも200ページ以下ですので、たくさん書いたもんです。
文章は一文字でも少ないほうが良いと僕は考えています。
これでも、削った文章がたくさんあるんです。

全編書き下ろしです。
正確に言うと、このブログに書いた内容も少しは出てくるのですが、すべて大幅に改変してあります。

第一章:ルポ風
第二章:日記風
第三章:物語風
第四章:インタビュー
第五章:分析風

と、普通なら5冊分のネタを、全部詰め込みました。
濃い内容になっていると思います。

 最後に著者名。
始めはこのブログで使っている葉梨はじめにするつもりだったんですが、気が変わって本名を使うことにしました。
本名で出しても、恥ずかしくない物になったと思ったからです。
十年後に、僕に出会った人が名前で検索したとき、この本が出てきてもまったく後悔がない。
そうした本にできました。

 

どうか、手にとってください。
僕らの奇妙で凡庸な、日常を。
そして少しでも、この山奥の爽やかな風を感じることができますように。
  

「山奥ニート」やってます。

「山奥ニート」やってます。

  • 作者:石井 あらた
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

f:id:banashi1:20200509182132j:plain

 





 

レンタルなんもしない人とイベントに出た時の話

f:id:banashi1:20200409111949j:plain

レンタルなんもしない人とは、今年の2月10日の「ニート祭り」で同じステージに上がった事がある。
この「ニート祭り」にはここ数年毎回呼ばれていて、僕にとっては1年に一度、山奥から東京世田谷まで出てきて、いろんな人に会う機会です。
で、そのレンタルなんもしない人とのイベントの様子は映像作家の成富さんがドキュメンタリーを撮ってくれてます。

100人ドキュメンタリーNo.40-2 山奥ニート2 後編 
レンタルなんもしない人 VS 山奥ニート
https://www.youtube.com/watch?v=8NImm3Dr8t4&t=431s

僕はこのイベントの後、一週間ほど落ち込むことになる。
何があったのか。
怖くて今も動画を見れていないので、正確な記憶じゃないけど、ステージ上でこんなやりとりがあったんです。

僕「僕は最近子供欲しいなーと思ってるんですが、レンタルさんお子さんいらっしゃるんですよね。どうですか、ニートが子育てってできますかね?」

これに対するレンタルなんもしない人の答え。

「いや、知らないです」

くだらない質問をしてしまったと後悔した。
イベントのテーマが「ニート的感性」というものだったので、それに沿った話をしないとと思っていたし、せっかく足を運んでくれたお客さんのためにレンタルさんがツイッターでしない話を引き出したいなと思ったんです。

でも・・・なんか僕はその言い方に、普通に傷ついてしまった。

後はもう頭が真っ白。受け答えもしどろもどろ。
これはもうはっきりと、ステージ上で言われたことを真に受ける僕が間違っている。僕にプロとしての覚悟が足りない。
レンタルさんがどこまでキャラを作っているのかはわからないけど、求められるものにきちんと応えていた。「知らないです」とレンタルさんが言ったとき、会場は爆笑していた。
一方で、僕はなんの仮面も被らずステージに上がっていた。

このイベントには、若新雄純さんも出演していた。
若新さんの話は本当にめちゃくちゃ面白くて、こんな話を一番近くで聞けるなんて、山奥から来て良かったなぁ、なんて思っていた。
イベントの最後に、出演者から一言ずつどうぞ、と言われた。
僕はさっきの出来事から立ち直れず、ぜんっぜんまとまらない事を話してしまった。
次に若新さんのお話。最後にレンタルさん。
そのレンタルさんの最後の一言がこれだった。

「若新さん、話長いっす」

その一言で、会場は本日一番ウケた。
確かに、若新さんは一旦話し出したら止まらない。
お客さんも薄々話が長いと思っていたんだろう。
みんな笑っていた。若新さんも。
でも・・・うーん・・・。
最後の一言でそうやっていじりの笑いを取る事が、僕にはどうも正しいとは思えなかった。
自分が上手く話せなかったことと共に、ずっと心にモヤモヤが残った。

時間は遡って、イベントが始まる直前のこと。
スタッフさんたちは劇の準備でてんやわんやだった。
なんせ、スタッフも元ニート・現役ニートが多い。
お客さんを案内する係も決まっていない。
席は満席になり、立ち見をしている人もいた。

そんな中、僕らは会場の一番後ろでパイプ椅子に座って出番を待っていた。
すると、僕らより出番が先の、ミュージシャンの方たちが立って出番を待っていた。3人の若い女性のユニットなんだけど、マネージャーさんであろう高齢の男性の方が1人付いていた。
お客さんが満員だから、余っている椅子はない。
でも、ずっと立ちっぱなしなのはあまりにかわいそうだ。
どうしよう、スタッフさんは近くにいない。
僕は散々迷った挙句、自分が座っていた椅子をマネージャーさんに使ってくださいと渡した。
実際に座ってくれたかは見ていない。
椅子を譲られても、別に嬉しくなかったと思う。
でも結果、僕は椅子を失って、地べたに座ることになった。
会場の床は絨毯敷きだから、気持ち良かった。それに、椅子に座るより足を伸ばして座る方が好きだ。
若新さんと、もう一人のゲストである小屋暮らしのかつやさんが椅子に座っているのに挟まれながら、地べたに座っている僕。
僕を見て、お客さんはどう思ったんだろう。めちゃくちゃ変だ。品もない。
一応ゲストとして来ているのに、その役割から外れた事をした。
でも僕はその時、常識や体面に囚われずに、自分が正しいと思う事をやるのが、ニートらしさだと思った。
ニートの反対は、プロだ。自分の役割をまっとうする仕事人。

レンタルなんもしない人は、自分の役割を果たすという点では、間違いなくプロだと思う。期待に応えない事で、期待に応えている。
レンタルさん自身、自分の活動の事を「エンタメ」や「演劇」だと捉えている。

依頼をすることで、依頼者の方が演技に入れる。ぼくが帽子をかぶり、「なんもしない人」を演じていることとも重なります。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66409?page=4

僕はどうなんだろう。僕も「なんもしない」とよく言う。
だけど、レンタルさんと同じステージに上がって、僕は素人丸出しだった。
テレビや雑誌から期待される「ニートらしさ」にすら上手に応えられない。
僕には「なんもしない」ことすらできない。
僕にとって山奥での暮らしは、エンタメというより日常だ。
備考録として、あるいは単に書くことが気持ちいいから、ブログを書いているだけ。

だけど、レンタルさんを見ていると、なぜかメラメラと嫉妬心が湧いてくるのです。
僕より「レンタルなんもしない人」の中の人の方が、文章が上手い。140文字で一日をまとめて呟くなんて、めちゃくちゃ高度な事ですよ。しかも相手がある事だから、傷つけない表現をしなきゃいけない。レンタルさんは僕よりずっと能力が高いことに疑う余地はない。
だけど、「レンタルなんもしない人」より「山奥ニート」の方が面白いでしょ!!!
社会から要らないと言われたニートたちが山奥に集まる事で、新しい社会ができてるんです。
地元の人の平均年齢は80歳以上だから、あと20年したら完全にニートが征服することになる。

「山奥ニート」だって漫画化やドラマ化、しろよ!
群像劇っぽくさあ! 僕の役をジャニーズがやってくれよ!

いかんいかん、取り乱した。
街でニートやってる時はこういう嫉妬心によく取り憑かれたけど、山奥に来てからはほとんどなくなったんだけどな。

そんな感じで、レンタルさんとのイベントが終わってからも、思い出してはカッカしたり、モヤモヤしたり、落ち込んだりしていた。
それが晴れたのは、レンタルさんのこの記事を読んだ時。

面白いことをしたい欲は人よりあると思います。そのあとも長いこと嫉妬していて、「僕はこだまさんの人生のモブキャラなんだ」と思っていました。
https://ddnavi.com/interview/555999/a/

ああ、レンタルさんも同じだったんだ。
表に出る時は飄々としているけど、同じ人間なんだなって安心した。

僕はこれから本を出版します。
まだちょっと先ですが、発売予定日は5月21日です。
そのとき僕も、レンタルさんみたいに仮面を被るべきなんだろうか。
被ってしまったら、それはもうニートではないんじゃないか。
今も分からずにいます。

画像1

ドラマ、面白かったです。はい。
レンタルさんの再現度がめちゃくちゃ高い。
作り手が、レンタルさんの事を本当に好きなんだなと感じた。
冒頭のクリームソーダの話の時点で「あ、これ面白いやつだ」と思いました。
まさかのライバルキャラが出てきて、続きが気になります。