今日は本当に朝から晩までニコ生漬けだった。なんたる幸せ。
佐藤四段は対コンピューター用の戦法を使わないで、どんな陣形にも構える体勢。
一方ponanza側は定石を使わないで、プログラムに任せて好き放題の形にさせた。
人間とプログラムがお互いの力を100%出せる状態でぶつかり合った。
中盤、佐藤四段が優勢となり、ボンクラーズ評価関数では最大で400ポイント以上の差が付いた。
前回のようにプロの常識から外れる手もあり、このまま佐藤四段が押し勝つかと思われた。
しかし、終盤。
佐藤四段の残り時間が1時間を切ったあたりから悪手が出てしまった。
プレッシャーと焦りによるものだろうか。
ponanzaはそれを見逃さず、盤面は再び拮抗。
それまで丁寧な解説をしていた野月七段が、佐藤四段の勝ち筋の話だけになった。
どちらが優勢かという質問には、一貫して「わからない」と答えた。
佐藤四段の持ち時間がなくなる。
時間ギリギリまで考えた手に対して、プログラムは1秒で答えを出した。
秒読みをする声を背に、うめくように佐藤四段は呟いた。
「ありません」
歴史上初めて現役プロ棋士がコンピューターに負けた瞬間。
一瞬ニコ生のコメントが止まったように感じた。
記者のフラッシュに照らされる佐藤四段を見て、聞き手だった女流棋士は思わず泣きだした。
朝から見ていたぼくの目頭も熱くなった。
将棋というのはなんて残酷な世界なんだろうか。自分で「負けた」と口にしないと終わらない。
しかも今回それを言う相手は人間じゃない。
その気持ちはどんなものだったのだろう。
感想戦。
佐藤四段が言葉を発するまで、長い時間が必要だった。
かすれるような声。
記者会見後、解説の野月七段はこう言った。
「全棋士に今回の話が来て、私自身は立候補しなかった。彼はリスクも承知で立候補した。自分は負けてないと言うつもりはない。これは将棋連盟の棋士が負けたということ。」
ぼくは将棋に詳しくないから、佐藤四段の戦術的な敗因についてはわからない。
でもすごく人間らしい負け方だったと思う。入玉をするような逃げの将棋は指さなかった。自分の好きな方法を選んだんだと思う。
第1局でコンピューターに勝った阿部光瑠四段はコンピューターを研究し尽くした。
しかし佐藤四段はそれを良しとしなかった。
コンピューターには理解できないだろう。
「好き」「嫌い」があることこそが、人間とコンピューターを分ける一線だとぼくは思う。
第二回電王戦は全5局の団体戦だ。
今回、人間は負けた。これで一勝一敗だ。
しかしこのまま人間が負け越すとは思わない。
次回第3局。
船江恒平五段 対 ツツカナ
今度は人間の強さが見れるはずだ。