山奥ニートの日記

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映画感想『ペーパームーン』

 

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 90点。

映画に点数付けることは賛否両論あると思うけど、ぼくは「この人はこの作品にいい点数つけてるから、他の高得点作品も自分には合うだろう」という推測ができるようになるから好きだ。

映画というのは一番気楽に見れる「古典」なのかもしれない。アニメだって古典と呼ぶべきものはあるけど、1クールとなると結構な時間だ。古い作品は4クール以上のものも多い。映画なら2時間で古典を語れる。小説は面白いけどやる気がもっと必要だ。

この『ペーパームーン』というタイトルは誰でもどこかで耳にしたことがあると思う。お店の名前によく使われていて、タイトルで検索するのも一苦労だ。良いタイトル過ぎるのも困ったもの。

どんな話かと言えば、女の子とおっさんが旅する話。もうこれでほぼ想像できると思う。何度もパロディされていて。最近の直接的なものだと『スペースダンディ』とか。女の子とおっさんが旅する話はほぼこれのオマージュと言ってもいいんじゃないか。

作品もバディものとロードムービーのお手本のようだ。2人の掛け合いはそれだけで楽しいし、ロードムービーらしい終わりに向かっての切なさがある。

この作品、白黒なんだけど実は1973年と意外と新しい。同じ年の映画は『エクソシスト』や『ダーティハリー2』だ。白黒のほうが表現が豊かだということらしいけど、作品の時代設定が1930年代なのに合わせてというのもあるだろう。音楽もその時代に合わせているから、既に映画公開当時からしても懐かしさを感じるものだったはずだ。いいよなー1930年代、モダンで素敵だ。

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悲しいシーンで泣いたりしない。嬉しいシーンで笑わないのもいい。登場人物が寂しさを感じるところでも、涙なんか見せずにただカメラが主観になってすーっと目で追っていくだけ。カメラワークがとってもいいんだよ。ある時は鏡越し、ある時は砂埃、ある時は長回し。まったく飽きなく、かつとてもさりげない。同じ白黒でも『市民ケーン』はかなり技巧的でちょっとクドいと僕は思った。これくらいが好きだ。

 

以下ネタバレ。ラストシーンについて

 あの終わり方は賛否両論あるんじゃないかと思う。「だって叔母さんのとこで暮らしたほうがお金たくさんあっていいじゃん、なんで詐欺師のとこに戻ったの? 説得力を持たせるために○○なシーンが必要だ」と思う人は結構いるはず。

でも僕はああいう終わり方好きなんですよ。車が動き出しちゃったんだからしょうがないじゃん、という。若輩者の僕が語るのはおこがましいけど、人生なんてそんなもんじゃんか。ブレーキが壊れてたからたまたまだよ。理由なんて後からついてくるもの。本人がその偶然を嫌がっていたらそれは起こらないんだけど。再会のシーンが落ち着いた喫茶店だったらたぶん、詐欺師のおっさんはアディを叔母さんのところに返してたと思うんだよね。でも動き出しちゃったからしょうがない。

この作品はアメリカン・ニューシネマの時代だからか、主人公たちに手厳しいよね。見ながら「もうやめてー、こいつらを幸せにしてあげて!」って思った。でも厳しい現実を描きながら、すべてを失ってからの「でもやるんだよ」はこれ以上ないハッピーエンドだよ。だってこの先、あの地平線まで続く道のりの途中で何度絶望しても、立ち上がれるって証明じゃないか。それは、お金がある叔母さんのところで過ごすよりもよっぽど「安定」した人生だと思うんだ。叔母さんとこで暮せば、アディは自分の母親のようなビッチや、あのデカパイのダンサーみたいにはならずに済むよ。でもそれが幸せだってことにはならないでしょう。

あと、登場人物のキャラがみんないいんだよ。詐欺師のおっさんとアディは言うに及ばず。デカパイのダンサーとか、いるわーこういう人って。あの人も悲しい人だよね…。座り込むアディを説得するとこ見て、この人いい人じゃんって。アフリカ系の付き人のふてくされた感じもね。冗談が好きなホテルマンもEXILEにいそうでいい味出てる。あの待ち伏せていた警官のにやついた顔! 聖書を売りつけられる人たちですら、あの一瞬でどんな生活をしてるか想像できるもんね。

久しぶりにDVD借りて見たけど、いやー映画って本当にいいものですね。