介護実習に行って来た感想
皮肉じゃなく、本当に勉強になった。
同じ部屋の男の子は、老人ホームに入れられた人は可哀相だなーって言ってたけど、ぼくはそうは思ってなかったのよ。
老人ホームに入れられるなんて、結構なお金がないと無理だし、NHKの無縁仏の話見ちゃってたし、実際行ってみてあそこの老人ホームは清潔で新しかったし。
それに、ぼけられるなんて幸せな話だ。
ぼけられるものならぼけたいよ。
もうわけわかんなくなって、同じ話10回以上したり、ありもしない杖を探したり、老人ホームを自分のうちだと思っていたり、もう会話なんかできやしないんだけど、そこまでぼけてりゃ老人ホームに入るのもいいんじゃないの。
だけど、中にはしっかりした人もいて、杖をついたり手押し車使ったりして歩けるし、意識もはっきりしてるし、全然ぼけてない人もいた。
そういう人は本当に気の毒だった。
周りみんなぼけてるから話通じないし、職員は忙しいから話相手にもなれないし、テレビの国会中継をぼーーーーーーっとしながら見てるだけ。
あれじゃそのうちぼける。
話を聞かせてもらうと、家でひとりで暮らしてたけど、転んで病院に運ばれて以来老人ホームにいるんだとか。
「私は自分の家にいたほうがいい」って言うお年寄りに対して、言葉だけで「いやあ、ここにいるのも気が楽でいいじゃないですかー」なんて言うしかできなかった。
お年寄り、と呼ぶには若すぎるおじさんがいた。
全然ぼけてないんだけど、体が麻痺してひとりでは食事もできないのだ。
でもとてもしっかりしてるし、冗談も言う面白い人だ。
自己紹介のときに「どうも、色男です」なんて言っちゃう人だ。
一日目にその人に会って、そのおじさんが周りのぼけてるお年寄りととてもスムーズに会話していた。
「この人たち、今のことはわからんけど、昔のこと言うとよく話すのよ」
なんて、教えてくれた。
確かにその言葉通り、あそこのお年寄りたちは昔の時間をずっと生きてるような感じがした。
天国ってそんなところなのかもしれない。
そのおじさんは「ああ、松本さんね。松本さんのとこなんかいかん。あそこ遠いで」とかなんとか相槌打ってたんだけど、たぶん松本さんなんか全然知らないんだと思う。
だけど、その相槌で他のお年寄りの方はとても気持ちよく話していた。
あまりに気持ちよすぎて5回も同じ話をしていた。
次の日からそのおじさんの真似してみた。
そしたら、凄く自然にコミュニケーションをとることができて、同じ部屋の男の子から尊敬の眼差しを受けた(ような気がする)。
あの名も覚えてないおじさんのおかげで、お年寄りの扱いが格段にうまくなったのだ。
「お子さんは?」
老人ホームにいて何度も聞かれた質問だ。
別にぼくが老けてるわけじゃない。同じ部屋の男の子も、他の女の子も聞かれていた。
子供なんかあと10年先だって生まれてるかどうかわからないぞ。
だけど、お年寄りにとっては10年なんか大して変わらないんだ。
そう思ったら、自分の人生まだまだ長いんだなーと思った。
今まではThe Whoが「I die before get old」と歌っていた通り、歳取る前にきりのいいとこで死にたいなんて思っていたけど、まだまだ。たまにうんざりするぐらいに長い時間があると思うと、それまでの春休みうんこ製造機となっていた自分を大いに反省した。
そして、今実家にいる。
うちにはおばあちゃんがひとりいる。
もう片方のおばあちゃんも腰は曲がってるけど元気だ。
ぼくは普段家じゃ全然喋らないけど、さっきご飯のときに話をした。
いつの間にか居間に飾ってあった写真が、実は押し花でおばあちゃんが作ったものなんだって。
ぼくが実家離れることになって、世話する人がいなくなったせいでぼけないかと不安だったんだけど、ぼくよりずっと元気そうだ。