櫛枝実乃梨が好き
『とらドラ!』がニコ生でまた一挙放送してて、また1話見たら止まらなくなって結局最後まで見てしまった。通して見るのはたぶんこれで5回目だ。
僕はラブコメとかラノベ原作ってだけで見ないような人種なんだけど、『とらドラ!』だけは別。釘宮理恵のツンデレはいはいなんて思ってた頃が懐かしい。
ヒロインのひとり、櫛枝実乃梨ってキャラがいるんだけど、僕は櫛枝実乃梨がアニメに出てくる女性キャラの中で一番好きだ。途中から(具体的には合宿の「たかすきゅん!」から)は櫛枝実乃梨を見るためだけに見てた。
でも櫛枝が何を考えているのかは、未だによくわからない。
『とらドラ!』は「見えているもの」と「見えていないもの」というのがキーワードで、一番最初にナレーションでそのことが示される。※1
櫛枝は竜児に対して、「見えてるものに走りだせ!」って言うんだけど、お前はどうなんだ、と思うのは僕だけじゃないはず。自分の竜児への思いは「見えてないもの」だとでも言うのだろうか。実際、ニコ生のコメントやブログなんかじゃ結構叩かれてて、『とらドラ!』の中で一番性格悪いなんて言われたりする。
感想をちょこちょこ拾い読みしたら、面白い意見があった。
とらドラは30代女性の悩みと生き方を登場人物に代弁させているんです。
櫛枝はジェンダーに縛られ続け悩みを深める女性の象徴です。
櫛枝のような「ずるさ」がないと女性として続けていけないが、
結局は大河(男に上手く甘えられる)のような女性に
すべてを奪われていくという野が現実だと
暗に作者は言いたかったのだと思います。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1240814962
まあもちろんそのまま受け止めるにはちょっと言い過ぎって感じがする意見だけど、櫛枝が男に甘えられる大河の対比として描かれてるのは確かだよなぁ。
もうひとり出てくるヒロインの亜美もまた甘えられない女なんだけど、後半は半ばデウス・エクス・マキナというか、エヴァの渚カヲルみたいになってるからなw
それで今回5回目の『とらドラ!』を見たんだけど、最後の櫛枝の気持ちがだいぶわかってきたような気がする。
後半の櫛枝の動きを整理する。
- 亜美に対して「見えないもの」に惑わされず、「見えてるもの」に走りだすと決意を表明。でも亜美はそれを取り合わない。櫛枝が竜児を好きだってわかってるから。
- 「見えてるもの」を見えない振りをした竜児と大河にキレる。
- 竜児に大河を追いかけるかどうか選択をせまって、櫛枝は振られる。
- 「竜児が好きだったけど大河に譲らなきゃと思ってた」と告白。
- 竜児に対して「見えないもの」に惑わされず、「見えてるもの」に走りだすと決意を表明。
- わかってくれる人がいるなら、報われるよな
- 吹っ切れて大河を応援する…ように見えて吹っ切れてなくて亜美の前で泣く
- 次の日、亜美曰くまだ吹っ切れてない様子
- 大河がいなくなって、竜児を殴る
最初に4について補足すると、「竜児を大河に譲らなきゃと思ってた」って過去形で言うから、櫛枝は竜児を大河に譲ったわけではない、と考えるとわからなくなってしまう。そのあとの「あたしの幸せはあたしが決める」と合わせて初めて意味がわかる。つまり、「大河に譲らなきゃいけない」から「大河に譲りたいから譲る」に変わったんだ。結論は1話と同じだけど、大きな違いがある。これが嘘なのかはわからない。
それで確かに引用の通り、櫛枝はジェンダーに悩んでると告白する(5のこと)んだけど、最終的に櫛枝は竜児のプレゼントを受け取らない。受け取った上で付き合わないのであれば、「ああ、女性性を受け入れたんだなぁ」と思えてジェンダーの話の落とし所になるんだけど、おそらく多くの人が櫛枝があの後に他の男と付き合うところが想像できないんじゃないだろうか。薄い本も櫛枝は極端に少ない。あってもレズだったりする。ジェンダーの話としてはまったく決着がついていない。もしジェンダーの話だったら、櫛枝は成長してないことになる。(※2)
物語構造的な面からも、ジェンダーについての話をする5って、1の亜美に言ってることと同じなんだよね。だから5は嘘なんだよ。自分に言い聞かせてると言ってもいい。竜児もそれをわかってて、だからこその6の「なら、報われるよな」なんだ。何が報われたのかっていうと、自分の気持ちを押し殺して2で大河と竜児を応援したこと。
この「なら、報われるよな」って後半の櫛枝の行動原理を一言で表しててすごい。「見えてるものに走りだせ!」って言ったのだって本当は言いたくなかっただろうし、見えかけてた恋心に走りだせなかった自分に全部跳ね返ってくる。でもその苦しみを竜児と亜美にわかってもらえたから、櫛枝は成長したんだ。
櫛枝は「ジャイアントさらば!」して吹っ切ったように見えるんだけど、吹っ切れてないんだよね。いかにも吹っ切れた顔して竜児と大河を応援するけど、亜美と2人になったとき泣いてしまう。
次のカットでも吹っ切れてるように見えるけど、亜美の台詞から吹っ切れてないことがわかるんだよね。「心臓筋肉女もさすがに応えたか」って。櫛枝は自分でそれを遮るけど。
櫛枝の印象を悪くしてるのは、9の竜児を殴るところ。事情わからないのに女の味方する櫛枝がすげーフェミっぽくて気持ち悪い。このシーンのせいで櫛枝嫌いって人もいるんでは。でもやっぱりこれも嘘だと思う。私に辛い思いさせても大河を選んだんだからしっかりしろよ!ってのが本当の気持ちなんじゃないだろうか。
櫛枝と亜美の最後のシーンは竜児の頬をつねるところなんだ。あのシーンで2人は吹っ切れたんだと思う。やっぱり自分を選ばなかった奴は憎らしいでしょ! そのマイナスの感情を出せて初めて、次に進めるんだと思う。
櫛枝実乃梨ってすごく特殊なキャラに見えるけど、本当は一番普通の女の子だよね。普通の女の子代表と言ってもいいかもしれない。だから作中で竜児をいつ好きになったのかも語られない。きっとそれはドラマチックな出来事があったわけじゃないからだと思う。なんとなくだったんじゃないだろうか。
※1 ふと思ったけど、「見えてるもの」と「見えてないもの」って虎と竜にかかってるんだろうか。幽霊やUFOと同じく、竜も存在しないものだよね。櫛枝にとって虎は「見えてるもの」だけど、竜は「見えてないもの」だったのかもしれない。
※2 物語の終わりの時点では他の男と付き合うのが想像できないけど、でも亜美は「あたしらが人生語るなんてまだ早い」と言う。これがまた救いなんだよなぁ。きっといつか櫛枝は男と付き合って幸せになるんだろう。