高校の同窓会に行ってきた。
山を下りて、わざわざ。
同じクラスの人は誰ひとり思い出せない。
昼はいつもひとりで食べていた。
十七歳の僕はクラスの誰にも心を許していなかった。
今考えると、クラスの人を見下していたんだろうな。
それなのに同窓会に行こうと思ったのは、思春期の鬱屈した思いを今思い出しておかないと一生忘れてしまう気がしたからだ。
ライ麦畑でつかまえて、グミ・チョコレート・パイン、タクシードライバー、銀杏BOYZ、僕の小規模な失敗、ボーイズ・オン・ザ・ラン。
当時は死にたくて破滅に憧れていた僕も、今年三十歳を迎える。
それでもUFOが来たら、迷わず乗ると決めている。
タイムマシンだってそうだ。同窓会はタイムマシンに最も近いもので、それが会費8000円で乗れるんなら安いものだ。
高校時代を懐かしむために行くんじゃない。高校時代の暗く、苦い思い出をもう一度。
間違いなく僕の原点はそこにある。
会場はあまり広くないホールで、立食形式だった。
BGMとしてBUMP OF CHICKENが流れていた。
だからバンプは嫌いなんだ。
周りにいる同級生の顔を見ていく。かすかに記憶にあるのが何人か。
しかし名前は全然わからなかった。
みんなは十三年ぶりの再会に盛り上がっている。
僕がひとりでいるのを見て、男の子が話しかけてきた。
覚えている人はいる? 覚えてる先生は?
どちらもいない。話題がない。
結局、天気がよくてよかったという話をして離れていった。
彼は覚えてる。クラスメイトだ。高校の頃もまったく同じ事があった。
その時も、こんな感じで話が続かなかった。
悪い事をしたな、と思った。
だけど無理して話題を作るのもおかしい気がした。
周りの会話に耳を澄ませながら、料理を腹に詰め込む。
酒もどんどん飲む。
おかげで、少し人と話したくなってきた。
いつもシラフで、高校生は大変だな。
僕をこの同窓会に誘ってくれた子の近くに行く。その子は、女の子と話していた。その女の子もどこかで見た覚えがあった。
ああ、そうだ。高校生の頃、少し気になってた女の子だ。
僕は文芸部の部長をしていて、その子もなにか文化部の部長だったから、部長会議で顔を見かけるのだ。
だけど結局、一度も話しかけることはなかった。
一度だけ、図書館で向かいの席に座ったことがある。でも話しかけるきっかけがなく、それだけだった。
その子は日本酒を飲んでいた。
「いいなー」と言うと、その子は自分が飲んでいたおちょこを僕に渡した。
間接キッスと驚く間もなく、その子は日本酒の瓶に口をつけてラッパ飲みし始めた。
ああ、こういう変わった所が好きだったんだなぁ。
そのあとは普通に楽しく喋った。
こんなに楽しく喋れるなら、あの図書室で無理矢理にでも話しかければよかったかな、と一瞬思って、すぐそれを否定する。
無理に話しかけても、会話は続かないよね。
今こんなに話せているのはお酒の力だ。
三十歳の僕が記憶を保ったまま、十七歳に戻っても同じ結果になるだろう。
そう考えると、ちょっと運命とか呼ばれるものはあるかもしれないと思った。
その後二次会まで行ったけど、お金がなくなったから三次会はやめた。
合計1万1000円。その価値はあっただろうか。
妻の待つ家に帰る。
帰ったら妻は日本酒でべろべろになっていた。
ずるい、と僕が言うと、妻はおちょこを僕に押し付けると、自分は大きなコップに波々と注いで飲み始めた。