山奥ニートの日記

ニートを集めて山奥で住んでます。

山奥ニート、北へ(その1)

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東京に着いたのは15時ごろだった。

名古屋を出発したのは8時。それから7時間かけて、東京に入った。盆が近いから、平日昼間でも乗客は多い。18キッパーには難所と名高い静岡県だが、運良く座れてよかった。この乗り換えは何度もしているから、体が覚えている。実際、7時間は一瞬のように感じた。ほとんど眠っていたからだ。旅の前日はいつも徹夜に近くなるが、それを差し引いても車内で十分な睡眠が取れた。

思ったより早く着いたので、どこか寄る場所はないかと考えを巡らせる。お腹は空いていなかった。今から東京の友達に連絡を取るのは億劫だし、何より次の日からの日程を思うと、旅に不確定要素を入れる気にはなれなかった。

三日後に、本州の北端にたどり着かなきゃいけない、絶対に。

お金がないから青春18切符だ。乗れるのは鈍行列車だけ。一日7時間電車の中で過ごす。それを丸三日。日本って意外と広い。

今夜はphaさんが住んでいるシェアハウスに泊めてもらうことにしていた。よく知らないけど、コロニーと呼ばれてるらしい。大方、リビングで値落ちするように眠ることになるだろう。

台東区の駅から少し迷ったが、なんとかたどり着いた。四階建ての建物で、1フロアは細かく区切られている(ああ、もちろん「田舎と比べれば」だ。すっかり僕も田舎者になってしまった。都内ではすごく広いのだろう)。玄関のドアはたぶん開いていて、勝手に入っても怒られないと思ったが、念のためインターホンを押す。phaさんはギターを弾きにスタジオに行っていて不在らしい。代わりに別の人が出迎えてくれた。顎髭を生やした社交的な男の人だった。挨拶がてらTwitterをフォローする。どうやら小説家のようだった。もし別のところで出会ったら色々聞くところだけど、ギークハウスでそれは何か似合わない気がして、興味ないフリをした。舐められちゃいけない!

そうなると、やることはないので彼はドラクエ11を始め、僕はTwitterの通知と目の前の彼のブログを読むことにした。ギークハウス、phaさんは僕にとって憧れの場所だ。僕の想像と実際の内情は違うんだろうけど、僕はこの憧れをずっと持っていたかった。ここに人間のはぐれものが夜な夜な集まって、毎日が熱狂する日々を送っているんじゃないかと期待してしまう。しかしまぁ、本当は多くの時間、ただの元気のないおっさんのたまり場なのだろう。小説家の人のブログは僕の心を揺さぶった。

シェアハウスに住んで思ったこと - 都心環状線 - Yahoo!ブログ

 

 裏側というか、避難所というか、ぼくはこの三カ月間、そんなところにいたような気がしていた。二者択一の選ばれないほうを、わざわざ選択し続けているような感じに酔っていた。
 もちろん、そんなのは幻だった。実家暮らしと、いまの生活とのあいだに本質的な違いがあるかっていうと、正直怪しい。家族が心配してくれる声が聴こえなくなった代わりに、自分が自分に言い聞かせなきゃいけなくなっただけだ。家を出ないとそれを理解出来なかったというのは、恥ずかしいことだけど想像力の足りない点だったかもしれない。

 これを読んで僕は、憧れの場所の裏側を覗き見るようで、悲しくなったのだろうか。わからない。ギークハウスとは何なんだろう。住んでいる人にとっては早く売れて出ていきたい場所なんだろうか。若くて金がない時に一時的に住んで、成功したり耐えられなくなって出ていって、たまに遊びに来るのが理想なんだろうか。前に、ギークハウスの何かで、蝉の幼虫から蝉の幼虫が脱皮して来るロゴを見た。永遠のモラトリアム。アダルトチルドレン。遅くて長い青春。そんなイメージを僕は持っている。僕は放送されたドキュメンタリーを思い出してみたけど、住んでいる人がどう思っているのかはわからなかった。それとも、オタクというシャイな人種の謙遜なのだろうか。その場にいる誰かに聞いてみても良かったけど、僕自身がなんと答えられれば満足するのかわからなかった。

そんなことを思いながら、パネポンを見てた。

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深夜1時くらいになると、phaさんが自室から這い出てきた。僕はいつもお爺さんお婆さんに話しかけるハキハキした声でない、ギークハウスの人がよくやる力の入らない小さな声を真似して話した。phaさんに今回の旅の目的を告げると「あー、大変だねー」と同情した。明日は11時間電車に乗り続けると言うと顔をしかめた。その後、曖昧な話をした。僕は2時くらいにアイマスクをして寝た。

次の日、目が覚めるとphaさんがリビングにある鳥かごの覆いを外していた。9時半だった。意外と早起きなんだなーと思いながら挨拶する。まくるめさんとすれ違って、僕はコロニーを出た。名残惜しい気持ちがあった。あの家にいる間は、自分が特別な人になれたような気がしたからだ。実際に住んだら、きっとただの日常なんだろう。でも僕はこの憧れを持ち続けることにした。困ったことがあると、僕はphaさんだったらどうするかを考える。その想像のphaさんはきっと本当にphaさんとギャップがあるんだろう。でも虚構を信じられるのは素敵なことだ。今はそう思うことにした。

それと、共生舎・山奥ニートも憧れるような特別な場所にしなくちゃいけない。うちに来た人に、この感覚を味わわせるのだ。そう思いながら、バーガーキングでワッパーを食べて東京を出た。