噺の事件簿・リターンズ「ツンデレラー存命事件」
「もうすぐ、跳ぶぞ!」
ぼくの友人、Yassyはそう言った。
「おk」
いや正確には言ったのではない。
なぜならこの会話はインスタントメール…つまりメッセの上での会話だからだ。
確かにパソコンの右下を見ると23:59が表示されていた。
今日は2006年12月31日。
ぼくとやっしーは別に約束したわけではないのだが、なんとなく形式美としての恒例行事。
いや実際こんなくだらないことを実行する馬鹿がいった日本の人口の何パーセントを占めるのかまったく予想すら付かないのだが、とにかく年越しのベタ“年越しの瞬間にジャンプする”をやろうとしていた。
これによって得られる物理的作用ままったくなく、むしろ無駄にカロリーを消費するという点において生物理念に反した行為と言える。
しかしながらまだ若いぼくらはその無駄を正当化しようとはしなかったが、定番の行動を取ることでまるで自分たちはひとつの小説の登場人物にでもなったかのような陶酔感を味わおうとしてるわけだった。
「あと30秒」
メッセンジャーのウィンドウに彼の発信したメッセージが表示される。
あと5秒
別に年が変わったとしても数字がひとつ変わるだけなのだが
あと4秒
それでも、何かが自分がわざわざ行動しなくとも変わる、ということに人は期待をせずにはいられない
あと3秒
自分は変わんなきゃあ何も変わるはずはないんだがなぁ
あと2秒
ぼくは来年になることで変わる気はあるのだろうか
あと1秒
まあ、どうでもいいや
2007年1月1日0:00
ぼくは部屋でひとり、軽くジャンプした。
ぼくはこの2007年が始まる瞬間、この地上にはいなかったわけだ。
「それじゃ、初詣行って来る」
やっしーはそう言ってオフラインになった。
こんな真夜中からか。
しかし大抵は初詣なんて朝になってからいけばいいや、と考えるか、バーゲンセール行きたいから初詣なんてどうでもいいや、と考えるだろう。
そこをわざわざこんな時間から出かけてどちらも達成しようとするとはなかなか風流な一家じゃあないかやっしー家。
それにしても、外は寒そうだ。
暖冬っちゃあそうらしいが、他の季節に比べたら暖冬でも寒いことには変わりない。
「戻ってきたー」
あれから2時間ほど経った頃だろうか。
やっしーが初詣から戻ってきた。
ぼくは辞書登録してある顔文字だけで返事をした。
「で、“ツンデレラー”今年もやれよ」
ここで少し説明をせねばなるまい。
いや、別にサスケじゃあるまいし、忍術の紹介でもするわけじゃあないんだが。
ぼくは今年・・・いや、もう去年か。
去年の12月にブログのキリ番を取った人の決めたハンドルネームで残りわずかな一年を過ごす、と決めたのだった。
考えてみれば別にキリ番だからといってぼくがこんな×ゲーム的仕打ちを受ける理由はないのだが、そこはまあ、ファンサービスという奴だ。
決してぼくがマゾなわけではない。
そこで決まったハンドルネームが「ツンデレラー」
本来ツンデレを愛好する者という意味らしいが、「詰んでレラー」などと茶化して自分が手詰まりなことを自虐的にいうこともあるらしい。
どちらかというとぼくは後者の意味合いのほうが強いかもしれないが、大半の人はどうやら前者の意味で取っていたようだ。
まったく失礼な話だ。ぼくはそこまで二次元に思いいれがあるわけじゃあないのに。
そしてメッセンジャーのぼくをあらわす名前はすでに通常の名前に切り替わっていた。
あんな名前、もう二度と使うのはごめんだ。
やらないよ、とぼくはやっしーに否定の意を表明した。
「ちょっと、待てよ」
なんだ、何かあるのか?
「今、1時45分だ。おまえのブログにはこう書いてある。『今年いっぱいこのHNで過ごす』と。」
「そんなはずはない。直したはずだ」
そう、確かにぼくはブログの自己紹介部分の名前も書き換えたし、説明の部分にあるキリ番のことも変えた。それも今年が始まった瞬間に。
「いや、証拠がある」
そういってやっしーはぼくに「証拠.JPG」という名前のファイルを寄越した。
開いてみると、それはスクリーンショットだった。
スクリーンショットとはパソコンの画面を画像にして保存したものだ。
…なるほど、確かに書いてある。
しかも、そのスクリーンショットの右下の時間表示は1:40になっている。
「どうだ? これで今年…この2007年いっぱいも“ツンデレラー”を名乗れよ」
そんな馬鹿な…
確かに直したはずだ…
しかしこうもハッキリと証拠を見せられては記憶が揺らいでくる。
メッセンジャーの名前、ミクシィの名前、ミクシィのプロフィール、ブログの自己紹介、ブログの名前、ブログのキリ番説明…
確かに直す場所は無数にあった。
いちいちわざわざそれらをすべて確認することはしなかった。
やったと思い込んで抜けていることもありえなくはない。
いや、だが…
「ほら、どうした?w お前の手抜かりだろ、責任取れよw」
やはり記憶を手繰り寄せると直した覚えがある。かすかに、だけど。
ならばこの画像に何かあるはずだ。
あ、そうだ。
「これ、お前が画面の更新をしなかったら、時計なんか関係ないじゃあないか」
さらにぼくは続ける
「確かにお前のメッセンジャーはオフライン状態になったが、そんなのはなんとでもなる。メッセンジャーだけ切ればいいんだしな」
もちろんパソコンの時計をずらすという手もあるが、そこまで手の込んだことをする時間はなかったはずだ。
やるはずがない、と言える奴じゃないのが困ったところだが。
さて、これで危機から脱したな。
この野郎、なんて言い訳するんだろうなあ。
しかし、彼の言った言葉は僕の自尊心を立ててくれるような、そんな言葉ではなかった。
「いや。帰ってから、だ。」
そんなこと言ったって言うだけじゃあな。
「カウンターの数、合わせたら?」
僕のブログにはカウンターが付いている。
もともと僕の使っているブログにはカウンター機能がなかったので、無料レンタルサイトのを使っている。
1:40の画像を見ると 31689 になっていた。
今のぼくのブログのカウンターは 31695 だ。
つまり、ぼくの推理が正しかったのなら、この画像は新年を迎える前のものとなるので、カウンターの表している訪問者数は少なくとも2時間以上前のものになる。
ぼくはカウンターについているアクセス解析機能で、調べてみる。
1月1日に訪れた人だけで20を超えていた。
つまり、この画像は実際に1月1日1:40に撮られたものとなる。
まずい…
このままじゃ完全にぼくの負けだ。
やると言って、結局やらないとかそういうことは幾らでもできる。
だがやっしーごときに負けていてはぼくの名が廃るというものだ。
目を皿のようにして「証拠」画像を調べる。
おや、一番上の記事のタイトルが「2006」になっている。
ぼくは0:00ちょうどに「あけましておめでとうございます」というタイトルの記事をブログに投稿したはずだ。
つまり一番上に「2006」が来るはずはない。
しかしこの画像は確かに1:40に撮られたもの…
さらによく見てみると、
どうやらこの画像はトップページではなく、ひとつの記事を開いたもののようだ。
しかも左側のメニューを区切る線が中央まではみ出している。
こういうことはよくある。例えばブログのデザインを変えた時など。
何かブログに変更を加えるときはいちいち「再構築」しなくてはいけないのだが、すべてを再構築すると時間がかかるので、このブログではいじった最小限のものだけを再構築することになっていた。
しかしそうするとよく個別の記事を開くと、再構築した部分としていない部分とが矛盾してこうしてデザインが狂うのだ。
いや、そうか。
そういうことか。
ぼくは確かにブログの名前を“ツンデレラー”から書き直した。
それによってトップページは通常のものになったのだが、部分的に再構築していない…つまり“ツンデレラー”のままの部分が出来てしまった、ということだ。
これはぼくの手抜かりではなく、ブログの仕様の問題だ。
よってぼくは2007年を“ツンデレラー”で過ごす必要はないのだ!
ぼくはこのことをやっしーに説明した。
「ほ~~~~~~~~~~」
なんだ、その反応は。
「ぬかり、ありと」
危ないところだったぜ
「勝ったーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
は!?
どこかまた見落としがあったか!?
「いや、勝ったのは、
Yassyさんの小市民度は100小市民度中で80ポイント でしたのこと。」←トロピカルパフェの記事参照
…。
「しょうもねえことです。はいw」
コノヤロ…
「おれってちっちぇえ~」
いやある意味大物だ。
おしまい
あとがき
昨日の出来事をなんとなく小説風にしてみた。
あと小市民シリーズみたいなのが書きたくなった。それだけ。