川で本読んでたらニートが流れてきた
山奥とはいえ、日中は暑い。
特に僕の部屋は日当たりがよく、窓が大きいから温室そのものだ。
パソコン触ってるだけで、キーボードに接する手首が汗でべったり張り付いてしまう。
こんなところには居られない。川へ行こう。
共生舎から150mほどの距離にある川。
ちらと目をやるだけで、10匹近くの魚が泳いでいるのが見える。
サンダルを脱いで、足を水に浸す。
冷たくて気持ちいい。
岩にタオルを敷く。こうしないと、ゴツゴツした岩に僕のやわらかいおしりは負けてだんだん痛くなってしまう。
持ってきた本を開く。360度からセミの鳴き声が聞こえる。都会とは違う種類のセミだ。なんという名前だろう。
森からふわっと冷たい風が吹いてくる。
なんて贅沢だろう。
お金はないけど、今の僕は日本で一番豊かなんじゃないかと思う。
何ページか読んだ後、水に漬けた足がかすかにくすぐったく感じた。
なんだろうと思って見れば、5cmほどの小さな魚が僕の足をつついていた。ドクターフィッシュと呼ばれてるあの魚以外も食べに来るんだと驚く。
後ろのほうで足音がした。振り返ると、ジョー君がひとりで浮き輪をもって川に向かって降りてきた。
本を読んでいる僕に気を使ってくれたのか、何も言わずに河原を上流へ歩いていった。
しばらくすると、ゆっくりとジョー君が流れてきた。
なんという絵になる男。
美しい絵画のようだ。
そのまま何も言わずに見送った。
さようなら、また共生舎で会おう。
本を読み終わって立ち上がったときには、セミの声はひぐらしに変わっていた。
陽は少し傾いて、木漏れ日はオレンジ色を帯びている。